2011年7月14日木曜日

「読み物として面白く、読後感が爽快」受賞作の池井戸潤さん「下町ロケット」

選考するのも大変ですね。どんな基準で選ぶのか、難しそうだ。

 第145回直木賞は、池井戸潤さん(48)の「下町ロケット」(小学館)に決まった。14日夜、東京・築地の「新喜楽」では、選考委員会終了後に、選考委員の伊集院静さんが会見し、選考経過について説明した。詳細は次の通り。 

 「長らくお待たせしました。選考が長くかかったのは最終的に池井戸潤さんの受賞作と、島本理生(りお)さんの作品(「アンダスタンド・メイビー」)との決選投票になり、それからも紛糾したため。葉室麟(りん)さんの作品(「恋しぐれ」)も第3の候補として残っていて、活発な論議があり、時間がかかりました。決選投票では池井戸さんの圧勝。個人的には島本さんの作品を推したくて、きょうは自信を持って選考会に来たんだけれど、難しいね」

 「池井戸さんは以前の作品から一貫して姿勢を変えていない。読み物として面白く、読後感が爽快。今こういう時代で、救済されるべき(中小企業の)人がテーマなのもいい。では質問をどうぞ」

 --選考の経緯は

 「決選投票で池井戸さんは文句なしに受賞が決まり、それから島本さんはどうかと評価(議論)になった。若すぎる、という声もあったが、デビューからすでに12年、そんなことはない。テーマもいい。異性には理解される女の子の、それゆえの悩みというのは、今の時代に支持されるもので、(選考委員の)桐野夏生さんや私などは推したが、ベテランと女性2名は反対しました」

 「もっとも最初のほうも長くかかり、1回目の投票で葉室さんは過半数に足りず落ちました。同じく落ちた高野和明さん(「ジェノサイド」)、辻村深月(みづき)さん(「オーダーメイド殺人クラブ」)も、(一部の選考委員の)評価は高かった。高野さんの才能と腕力がある点は評価されていました」

 --辻村さんの作品については

 「今回、島本さんとテーマが似ているところがあった。この作品については、最終的に自死願望をあきらめていく理由が書かれていないとの意見、またベテラン(の選考委員)からは頭で書いた作品でリアリティーに問題があるとの指摘もあった。島本さんとテーマが重なって、割を食った印象はあります」

 --今回の選考で、東日本大震災の影響というものはあったか

 「池井戸さんの『下町ロケット』は、中小企業が自前で(ロケットを)全部つくるのは理屈に合わない、これは震災前の作品だという意見も出ました。一方で、こういうときこそ中小企業を盛り上げるべきだとの意見もあり、中小企業を救済するような作品だという声もあった。そういう意見に、大震災後の影響が出ていたと思います」

 --葉室さんの作品については

 「個人的には推したんですが。物語の中の状況描写に俳句が安易に使われているという指摘があった。葉室さんには(○ではなく)△を付けた選考委員が多かった。決め手がなかったということはあるでしょう」

 --島本さんに反対の人の意見は

 「反対の人の言っていることは、よくわかりませんでしたね。島本さんの世界を理解できないという人もいたんじゃないでしょうか。私は、本当にいい作品だと思います」

 --池井戸さんの「下町ロケット」は男性が読むと爽快だが、女性の選考委員の声はどうだったか

 「宮部みゆきさんは支持していましたし、林真理子さんは『直木賞の優等生』と言っていましたね。桐野夏生さんも『これは震災前の、昭和の作品だ』と言いながらも面白さ、読み切らせる力は十分評価をしていました」 

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